「起業と資格」のリアルな話

公認会計士 土肥卓哉

来年や、来年度に向けて何かを始めるのにも、いい季節。
起業という文字も気になるし、何か資格を取って起業してみたいと思った、そこのアナタ。

資格を取得してから起業した公認会計士の話を、少しだけ聞いてからにしてみませんか?
資格と起業のリアルな話を、個人的な経験も踏まえてお話しします。

公認会計士でも、起業や経営は難しい

医師国家試験や司法試験と並び、三大国家試験や三大国家資格と呼ばれることもある、公認会計士。資格の性質や、専門領域からして、会計やお金には詳しいはずですが、それでも自分で事業を起こす、独立開業や起業をするとなると、そう簡単には行きません。

資格を取っても、必ずしも起業や転職に有利になるとは限らない、と最初に言っておきます。

資格ありきでの起業、は辞めよう

もしあなたが起業したくても、「資格を取りさえすれば上手くいく」という考え方なのであれば、起業はオススメできません。資格取得も、単に起業目的なのであれば方針転換した方がいいかも知れません。

資格を持っているから会社を辞めても大丈夫、独立開業したって大丈夫という考え方もできますし、実際にそれで食ってきたこともあるので、強い否定もできませんが、できることなら、「これがやりたい」を先にしっかり描いてから、資格を取るのか、起業をするのか、きちんと検討してください。

「何をやりたいか」が定まっていないのに定職を放り出してしまうと、「何をやりたいか」が定まるまで、また「やりたいこと」が軌道に乗る、黒字になるまで、ひたすら赤字を垂れ流すことになります。

十分な貯蓄をしていても、腕組みをして考え込んでいる間にどんどんお金がなくなっていく、資産が減っていく一方だと、冷静に事業プランを練ることは難しいでしょう。結局、資金ショートを起こすか、家族や周囲の意見に屈して元の会社員、前より条件の悪い非正規雇用という展開もあり得ます。

心身ともに疲弊して、ただただお金と時間を無駄にする可能性も高いので、先に「何をやりたいのか」をしっかり考えてから、資格取得、起業を考える、実行に移すようにしましょう。

資格とのミスマッチが足枷になることも

例えば、「アンドシング」(and-sing)という名前。「ともに歌う」、「安心(アンシン)」するという意味を込めて付けた名前ですが、たまに「アンドシンク」(and think)と間違えられます。音の聞こえ方や文字の見た目も影響しているのだと思いますが、資格との関係上、「ともに考える」という意味に受け取られやすいのだと思います。

とりあえず取得した資格が有利に働くこともあるし、資格があるからこそ食い繋いできた一面もありますが、将来的にやりたいこととの適合具合、組み合わせた時の印象というのも、よくよく考えておいた方が良かったかなぁと、思うことがたまにあります。

資格そのままの仕事をする、なんらかのアウトソーシングを受ける専門の事務所を立ち上げるのならまだしも、これまでのキャリアや経験と掛け合わせた違う事業をやりたいのなら、そことの関係性、マッチングも一度冷静になって考えた方がいいと思います。

起業した時の頼りにはなる

会社や何らかの組織から独立して、完全な個人として事業を起こしてしまうと、それまでは使えた「所属元の看板」や威光がなくなります。完全にゼロからの信用と信頼構築、「何ができるか」の実力や実績の世界に変わります。

そんな時、それだけで事務所を構えられる、仕事ができる資格があると、社会的な信用獲得、あるいは専門的な仕事の獲得においては、有利に作用します。

独立までの仕事や実績、キャリアにもよりますが、少なくとも数年ぐらいはそれで食い繋げるでしょう。資格に関する業界や業種に、再雇用や出戻りもしやすくなります。保険の一つとしては、有効だったように思います。

簿記と税金、会社法は勉強しておこう!

資格取得するかは脇に置いておいても、会計や簿記、確定申告に関係しそうな税務処理は、独立したい、起業したいなら勉強しておいた方がいいでしょう。難しいところは専門家に委ねればいいですが、何でも一人でやらないといけないタイミングでは、自分でどれだけ勉強できているかが肝になります。

自分の商品やサービスに関する税金や会計処理も、何となく把握できていれば、営業する際にも有意に働くかも知れません。相手の会社、社長がどんなものを見ているのか、何を気にかけているのかを想像するためにも、簿記や税金はざっくりでも良いので勉強しておきましょう。

また、もし法人成りや会社設立を考えているのであれば、会社法も一通り学んでおくといいでしょう。詳しいところや実務は専門家任せでもいいですが、細かい取り決めが分かっているかいないかで、日々の業務や、いざというときの対応方法が変わってきます。

やろうと思っている事業、サービスに関する法律にも、事前に触れておくのがベターです。

「資格と起業」は完全に別物

資格があるから起業できるものでもなく、起業したいから資格を取得するというものでもなく。それぞれ、完全に別物として捉え、「資格があるから上手くいく」はそもそも存在しないと思っていただく方が賢明でしょう。

事業や経営に関することを客観的に勉強して、実務を通して頭で理解したつもりになっていても、いざ自分が当事者となって取り組んでみると、全く違うものに変わります。頭で思い描いた通りに展開しないのが普通で、身体で知ること、覚えることも沢山ありました。

現実の厳しさや世知辛さを全身で浴びながら、いかに甘くないか、いかに甘く見ていたかが身に沁みます。

資格取得一つを取っても、世の中に上手い話もなければ、そんなに単純な話でもありません。
思いつきで走り出す前に、一呼吸置いて考える癖をつけていただけたら幸いです。

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公認会計士 土肥卓哉
1974年生まれ、大阪府出身。
神戸大学卒業後、大原簿記専門学校を経て、2000年にデロイトトーマツグループに入社。延べ100社以上の上場企業、非上場企業、学校法人、倒産企業などの監査、経営コンサルティング、再生・M&Aに関与。
個人事業主、契約社員を経て、2018年にアンドシング株式会社を設立し、代表取締役に就任。人生を自由に生きていきたい人のためのアンドシングスクールを開校。個人の起業支援やキャリア支援、大学・短大・フリースクールなどでの講演も行う。
著書に『ジブンノシゴトのつくり方』(ギャラクシーブックス)。
プライベートでは、中学生と高校生の父親。趣味は、歌づくりとキャンプ。特技は片耳動かし。

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